矯正治療において抜歯する場合としない場合の違い
2021.10.25更新
矯正治療における抜歯、非抜歯の基準とは?
「矯正治療をしてみたい」と思ったらまず、ホームページやインターネットをみて矯正治療について調べますよね?特に抜歯が必要かどうかということはみなさんが気になることです。
ところが、「抜かない矯正治療」というホームページや「非抜歯で治せる」という情報があると思ったら、逆に非抜歯矯正をするとゴリラ顔になるとか、口が閉まらなくなると書いてある情報も出てきてしまうことも。歯科医師が書いたはずなのに、記事によって内容が異なっており、どれが正しいのかわからない。調べれば調べる程かえって混乱してしまう事態になっていませんか?
この記事では混乱している皆様にそもそも矯正治療で何のために抜歯するのか?また抜歯と非抜歯を分ける基準について説明します。
矯正治療で抜歯する時としない時があるのはなぜか?
歯科医院で矯正相談をした時に、抜歯が必要と言われた経験がある人は少なからずいると思いますが、なぜ必要かしっかりと説明されたことがありますか?
矯正治療で抜歯をする必要性がある場合は主に4つあります。
1.デコボコを解消するためのスペースの確保
2.上下歯列の咬み合わせのズレを補正するため
3.前歯の角度や位置を改善するため
4.口元の突出を改善して綺麗な横顔にするため
これらは相互に関係しますので単純なことではないのですが、この4つの問題点を抜歯以外の方法で解決することができれば非抜歯矯正が可能で、出来なければ抜歯矯正になります。
つまり抜歯、非抜歯を決定する4つの基準は
①デコボコの量
②上下歯列の前後的咬み合わせのズレの量
③前歯の角度が適正範囲からどの程度は外れているのか
④口元の突出の程度
となります。この4つの基準について詳しく説明していきます。
◆デコボコの量
歯が大きくて顎が小さいから抜歯が必要ですよ。これは抜歯矯正の説明の際に最も説明されることです。
デコボコが大きくてガタガタした歯並びを治すためには、歯を並べるための隙間が必要になってきます。
しかし、デコボコが大きければ必ず抜歯が必要というわけではありません。たしかにデコボコを解消するための隙間を作ることが、最も簡単で効率的な方法が抜歯ですが、隙間を作る方法はそれ以外にもあります。どのくらい隙間を作ることができるかは個人差がありますが、いくつかの方法を組み合わせてデコボコを解消するための隙間を作っていくことも可能です。スペース確保の方法は抜歯を含めて5つありますので個別に説明していきます。
抜歯
矯正治療で抜歯をする場合、犬歯の後ろにある小臼歯という歯を抜くことが一般的です。上下左右のバランスをとるために上下左右1本、計4本抜くことが多いのですが、上顎だけ2本とか下顎だけ2本とか抜くこともあります。
小臼歯は7mm~8mmありますので2本抜くと確実に14mm~16mmの隙間を作ることが可能になります。
デコボコがひどい方でも必要な隙間の量が14mm以上という人はごく稀であるため、スペース確保ができるという点から抜歯されます。矯正治療で抜歯が一般的なのは確実に必要なスペースを作れるためです。
歯列の側方拡大
歯列を横に拡げて隙間を作る方法です。ただし、骨の成長が落ち着いている成人の場合は、歯列が横に拡がるだけで骨が拡がるわけではありません。もともとの歯列が内側に倒れている場合は、大きく拡大することがでる可能性がありますが、歯列が外側に倒れてる方、骨が薄い方は拡大することができません。無理に拡大すると骨から歯根(歯の根っこ)が飛び出てしまうことで、歯肉が下がってしまったり、後戻りの原因になってしまいます。
この方法でどの程度隙間を作ることができるかは個人差があるため、一概には言えませんが、側方拡大1mmにつき0.7mm隙間を作れると報告されています。白人の場合は一般的に歯列が内側に倒れており、その上デコボコの量も少ないのでこの方法が有効ですが、日本人の場合は拡大可能量も小さく、デコボコの量も大きいので側方拡大単独でスペースの確保は困難である場合が多くなっています。
奥歯を後方に移動
奥歯を後ろに動かすことで隙間を作る方法です。最近まで技術的な問題で難しかったのですが、インプラントアンカーという歯槽骨に小さなネジを埋め込むことで、そのネジを固定源にして歯牙を移動する方法が確立されてから急激に使われるようになった方法です。従来は奥歯を後方に移動する時の歯牙のコントロールが困難だったのですが、ドイツで開発されたベネフィットシステムという装置が日本で認可されてからは、非常に効果的に奥歯を後方移動することができるようになりました。
理論的にはいくらでも後方移動できるのですが、当然、解剖学的な限界が存在します。後方移動可能量は奥歯の後ろにどれだけの骨があるかによって決まります。そのため、この方法をとる場合は、事前にセファロレントゲンやCTで後方の移動可能量を計測する必要があります。
白人であれば一般的に5mm以上の後方移動が可能なため、この奥歯の後方移動だけでデコボコを解消するだけでなく、出っ歯の改善など様々な歯並びの問題を解決することができる非常に有用な方法となっています。そのため、現在は白人の患者さんの矯正治療で抜歯が必要になることがほとんどなくなったと言われています。
しかし、短頭型で頭蓋骨の前後径が短い日本人の場合は、奥歯の後方の骨も奥行きがなく2~3mmの後方移動が限界という患者さんが大半です。稀に5mm以上後方の骨がある患者さんもいますが、多くの日本人患者さんの場合はこの方法単独で抜歯矯正と同程度のスペースを作ることは困難なことがあります。
前歯を前方に移動
前歯を前方に移動することで隙間を作る方法ですが、この方法は前歯が内側に倒れているような特殊な場合以外はほとんど使用されません。前歯の前方への移動は、前歯が内側に倒れている特殊な場合のみ適応できる方法であるため、もともと前歯が前方に倒れているような場合は絶対にしてはいけない方法です。
歯を削る(ストリッピング)
ストリッピングは歯の横側をそれぞれ片面0.25mm以内、両面で合計1本当たり0.5mm以内で削ることで隙間を作っていく方法です。
歯と歯の間を削っていくので奥歯まで全部行うと理論上は13か所で6.5mm隙間を作れる計算になります。1本あたりは最大0.5mmしか隙間をつくれませんが、塵も積もれば山となる方式で前歯1本程度の隙間を作れることになります。
◆上下歯列の咬み合わせのズレの補正
出っ歯や反対咬合のように上下歯列に咬み合わせのズレがある場合は抜歯が必要になることがあります。例えば出っ歯の場合は上顎歯列が下顎歯列よりも前方にズレているため、上顎前歯が前に飛び出ているわけです。出っ歯の一般的な治療法としては上顎前歯を後方に移動して治すのですが、この上顎前歯を後方に移動するための隙間が必要です。従来ですとその隙間を確保するために上顎小臼歯(犬歯の後ろの歯)を抜歯して隙間を作っていました。
しかし、現在では奥歯を後ろに動かすことで前歯を後ろに動かすための隙間を作ることが可能になりました。ただし、5mm以上のズレがある場合、奥歯を5mm以上後方に動かす必要があります。その為には奥歯の後ろに5mm以上の骨の余裕がある必要がありますが、日本人で5mm以上の余裕がある人は少ないので重度の出っ歯の場合においては困難であると言えます。
また、反対咬合の場合でも下の奥歯の後ろに骨の余裕があれば非抜歯で治療することは可能です。ただし、反対咬合の場合は下顎前歯を後方移動すると、下の前歯が後ろに倒れすぎて歯根(歯の根っこ)が骨から出てしまったり、矯正治療単独ではしゃくれた横顔が治らないため、外科矯正という手術を併用した治療を選択することが多くなります。
◆上下前歯の角度は適切か?
歯並びが悪いわけではないのに上下の前歯だけ突出しているとか、上の前歯だけ前に反り返っている場合があります。
このような歯並びは笑った時の見た目が気になるという理由で矯正治療を希望される患者さんが多いのですが、実は見た目だけでなく、歯並びの安定性や歯の健康寿命にも関わる大切な事なのです。そのため、治療計画を立てるときに上下の前歯の角度や位置が適切か?適切でない場合は前歯をどこに動かすかを考えて全体の計画を立てなければなりません。
このような場合、ただ単に歯を並べてだけですと、大きな隙間を作る必要性はなく、一見抜歯は不要に思えます。ただし、何も考えずにこのまま並べてしまうと著しく前傾した上顎前歯の角度の改善することができません。その結果、下顎前歯が上顎前歯を突き上げることになりますので将来的に健康な歯列を保てない危険性があります。
このような症例の治療計画を立てるときにまず考えなければならないのは上下の前歯をどのくらい後方に倒していくべきであるかということです。後方に倒すべき量が多ければ多いほど必要なスペースが大きくなるのです。そのためデコボコがなくても前歯を後方に移動するときはその分の隙間を作る必要があります。
そこで上記デコボコを解消するための隙間をつくる5つの方法で隙間を作ることになります。実際には、歯列の側方拡大、奥歯の後方移動、ストリッピングを組み合わせて前歯を後方移動するためのスペースを作ることができるのであれば非抜歯矯正、できないのであれば抜歯矯正を選択することになります。
◆口元の突出具合
出っ歯を治したいと来院される患者さんの多くは、出っ歯そのものよりも突出した口元を改善して綺麗な口元、横顔になりたいと希望されています。突出した口元は見た目の問題はもちろん口唇閉鎖不全や口呼吸の原因にもなるため治療計画を立てる上で重視する項目の一つになります。
口元の突出を改善するためには前歯を後方に移動する必要があります。前歯が後方に移動する量が大きい程口元が大きく引っ込むことになります。ですからまずは口元をどの程度後方に移動する必要があるのかによって前歯を後方に移動する必要があるのかが決まり、前歯をどの程度後方に移動する必要があるのかが決まるとそれに必要なスペースが決まるわけです。そのスペースを非抜歯で作ることができれば非抜歯矯正可能ということになります。口元の突出が著しく、口唇閉鎖が困難という方の場合は現実的には抜歯矯正にが多いと考えて下さい。
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